先日、プロの韓日字幕翻訳者の方から依頼を受けて、スポッティングだけのお仕事をやってみました。
「翻訳は得意だけど、スポッティングは苦手」
という字幕翻訳者は意外とベテランの方にも多いとのことですが、私が感じたのは
「翻訳は苦手だけど、スポッティングは楽しい」
ということ。
何本か納品していくうちに、だんだんスポッティングにはまってきてしまいました!笑
スポッティングとは?
『スポッティング(通称スポ)』とは、映像の中で字幕の出るタイミング(IN点)と消えるタイミング(OUT点)を取っていく作業のこと。
以前は字幕制作会社の方でスポを行って、翻訳者はスポ済みのものに翻訳を入れていく、というように役割分担されていたようですが、現在はSSTなどの字幕翻訳ソフトが普及して、翻訳者自身がスポッティングを行うのが主流となっています。
これが、ベテランの方でもスポが苦手な方が多いと言われるゆえんです。
プロの字幕翻訳者さんの中には、「スポッティングは外注している」という人も多いそう。
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字幕制作ソフト『SSTG1シリーズ』を使ったスポッティング
こちらは、字幕制作ソフト『SSTG1シリーズ』の画面です。
登場人物の「なんとかかんとか」という台詞が 00:00:09:23~00:00:12:15 まで続いているとします。
ここで、スポッティングのルールが『IN点 2フレ前』『OUT点 10フレ後』だとしたら、
・IN点は 00:00:09:23 の2フレーム前の 00:00:09:21
・OUT点は 00:00:12:15 の10フレーム後の 00:00:12:25
でハコを取ります。ただし、カット変わりを挟む場合は、別のルールが適応されます。
字幕間の最低フレーム数、ハコの長さなど、細かいルールについては、 取引先の字幕制作会社や翻訳者さんの指示に従います。
また、韓国語の場合、「아이고」「네 (Yes/Noではなく、呼びかけに対する返事の場合)」などは意図的にアウトにする字幕制作会社もあるので、仕事を始める前に確認しておきましょう!
【字数制限】1秒4文字ルール
日本語の字幕翻訳のルールには、1秒につき4文字という字数制限がありますが、SSTが普及する前はなんとストップウォッチを使ってハコの長さを測っていたとのこと。
現在は、SSTでIN点とOUT点を取れば瞬時に何文字まで入力できるかが自動計算されて表示されます。
上のSSTのキャプチャー画面で見ると、ハコの長さ(Duration)は 00:00:03:04 つまり3秒ちょっとですので、3秒x4文字で、このハコには12文字ほど入力できることになります。
右側に出てくる字幕ウィンドウに、『12.5』と書いてあるのがそれです。ハコに訳を打ち込んでいくと、残りの文字数が表示されます。
スポッティングの相場
単価は、10分で1,000円くらいが妥当!
スポッティングの仕事をやってみたところ、映像10分で1,000円という単価が相場のようでした。
作業スピードは人それぞれなので何とも言えませんが、自分は10分スポを取るのに1時間くらいかかるので、時給1,000円のお仕事といった感じでしょうか。
60分のドラマだったら6,000円、90分のバラエティー番組だったら9,000円の報酬になります。
仮に60分のドラマのスポ済みファイルを月に10本納品すると、月に60,000円ほどの売上になるので、おこづかい程度にはなりますね。
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ハコは全部で何枚くらい?
筆者の経験上、ハコの枚数の平均は、以下のとおりです。
ハコの枚数(平均)
・ドラマ(60分) 800枚
・映画(90分) 1,000枚
・バラエティー番組(90分) 1,800~2,500枚
枚数で言うと、バラエティー番組が圧倒的に多いです。
ゲストや司会者がしゃべり続けるのでAトラックのハコも多いですし、テロップで文字情報が出る場合はBトラックにもハコが必要になるからです。
時には、Aトラック1,700枚、Bトラック800枚という膨大な数のスポをこなさなければいけないことも。
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気をつけること
スポッティングの仕事をするときに気をつけることとしては、「納期を守る」こと以外に、以下のようなポイントがあると思います。
①スポッティングのルールを聞いておく
仕事を受けることになったら、各字幕制作会社や翻訳者さんが定めるスポッティングのルールを必ず確認しておきましょう。
スポッティングのルール
・IN点 ○フレ前
・OUT点 ○フレ後
・字幕間 ○フレ
・カット変わりの時のルール
・(あれば)テロップのルール
また、私は個人的にアウト点の考え方についても念のため聞くようにしています。
通常は、『アウト点=字幕が消えるところ』と考えるのが普通ですが、以前仕事をしたクライアントで『アウト点=ハコの最後のフレーム』ととらえている会社もあったからです。
ココがポイント
ルールの認識で相違があると、修正が大変!スポを始める前にルールを完璧に理解すること
②タイムコードを合わせる
スポッティングを始める前に、タイムコードを合わせるのをお忘れなく。
うっかり忘れたことがあるのですが、取ったはずのハコがどこかに行ってしまったり、字幕移動をしなければいけなかったり、本当にめんどうでした・・・
③映像の取り扱いに気をつける
字幕翻訳で取り扱う映像の中には、まだ世の中に出ていないものもあります。
また、すでに世に出ている映像であっても、流出することがないよう、字幕制作会社と翻訳者はNDA(秘密保持契約)を結んでいる場合がほとんどだと思います。
スポッティングの仕事を請け負ったら、映像の取り扱いには細心の注意を払った方がいいでしょう。
スポッティングの仕事のメリット・デメリット
メリット
メリット① スキマ時間で作業できる
スポッティングの作業は、慣れてくればあまり余計なことを考えずに作業ができます。
つまり、短時間でも集中しやすいので、仕事や家事の合間のスキマ時間を有効活用できるという点がメリットだと思います。
メリット② プロの字幕翻訳家のお手伝いができる
スポッティングはある意味、字幕翻訳家になるための『修行』ということもできます。
プロの字幕翻訳家に弟子入りして、スポッティングや下訳を手伝っている人は一定数いるとのこと。
「自分だったらどう訳すかな」と考えながらスポを取って、プロの方の訳と比べてみるというのもいい練習になるでしょう。
また、ベテランの翻訳者さんだと人気のコンテンツを担当することが多いので、楽しみながらスポッティングできるというメリットも。
メリット③ 使ってないSSTを有効活用できる
「SSTは持ってるけど、字幕翻訳やらなくなったし、使い道がなくなった・・・」
という方も意外と多いのではないでしょうか?
字幕翻訳を長年続けるには相当なスキルと体力が必要なので、きつすぎてやめた、もしくは一時お休みしているという方には、短時間でできるスポッティングのお仕事はおすすめです。
デメリット
プロの字幕翻訳家を目指して、まずはスポッティングの仕事をやってみるというのはいいと思いますが、デメリットもあります。
デメリット① 字幕翻訳のスキルはそこまで身につかない?
それは、『スポッティングの仕事だけをしていると、肝心の字幕翻訳から遠ざかってしまう可能性がある』ということ。
スポの仕事を続けているとスポのスキルは鍛えられますが、やはり実際に自分がタイトルを受注して、決められた納期の中で翻訳の作業をし、納品するということをしていかないと、字幕翻訳のスキルや習慣が身についていかないからです。
また、実際に翻訳をやっていないと、翻訳者の方がハコを割った方がやりやすいのか、結合されてた方がやりやすいのか(好みにもよりますが)の感覚がだんだん鈍くなってしまうということもありえます。
デメリット② 単価が上がらない
字幕翻訳だったらプロになればなるほど、翻訳レートが上がっていったり、交渉がしやすくなりますよね。
スポッティングはスポッティングでスキルが求められるお仕事ですが、『10分 1,000円』という相場があり、なかなかそこから単価が上がっていかないという点もデメリットということができます。
あとがき
今回は、最近やってみたスポッティングの仕事についてまとめてみました。
スポをしながら、「うわ~ここの訳、難しいだろうなぁ~」「翻訳者さんはどう訳すんだろ?」と気になることがあります。
自分がスポッティングしたタイトルをスカパー韓流チャンネルなどで視聴して答え合わせをするのですが、自分では思いつかないようなすばらしい訳になっていて、やっぱりプロの字幕翻訳家はすごいな、と感じます。
私も字幕翻訳者の端くれですが、もっとスキルを磨いて、いずれは有名なタイトルを担当してみたいものです^^
ちー🍀