筆者は韓国語⇒日本語の字幕翻訳の仕事をしています。(現在はちょっとお休み中)
『字幕翻訳』というと、映画やドラマがまず頭に浮かぶと思いますが、筆者が字幕制作会社のトライアルに合格後、初めて担当したのはドキュメンタリー番組でした。
ドキュメンタリーが終わってからは、バラエティー番組の字幕を担当することに。
知り合いの翻訳者さんにその辺りの事情を聞いてみると、
知り合いの翻訳者Mさん
人気のドラマとか映画は、ベテラン翻訳者が担当することが多いから、新人さんにはそこまで有名じゃないドキュメンタリーとかバラエティー番組が回ってきやすいよ~
とのこと。
韓流ドラマや映画よりも、歌番組やバラエティー番組を見ることが多いので、
「ラッキー!そっちのほうがおもしろそうじゃん」
と楽観的にとらえていましたが、現実は甘くありませんでした・・・
スクリプトがないから聞き取りが大変
私が一番大変だと思ったのは、『聞き取り』です。
映画やドラマなどと違って、ドキュメンタリーやバラエティー番組、インタビュー映像などはスクリプト(台本)がついていない場合がほとんど。
そのため、翻訳する前にオリジナルの言語で何を言っているかを聞き取ることから始めなくてはいけません。
出演者が皆、発声がきれいなプロのナレーターや司会者、アナウンサーであれば聞きやすいのですが、ゲストの中には方言を使っていたり、ぼそぼそっと小声で話す人も。
スタジオの外で撮影された映像では、周囲がざわざわしていたり、口元がカメラに写っておらず誰が発した言葉か分からない、何人かが同時に話しているなんていう場面も多々あります。
また、韓国語のバラエティー番組では、よく言葉を短く省略した『略語』が使われます。
略語の例
・읽씹=읽고 씹는다 既読スルー
・실트=실시간 트렌드 Twitterのトレンド
・관종=관심 종자 かまってちゃん
筆者は韓国留学経験者で、いちおう韓国語能力試験6級も持っていますが、このような流行語やスラングは一度聞いただけでは何の意味か分からないことも多々あります。
そのつど音を頼りに自分で調べていると、けっこう時間がかかって大変ですね。
聞き取れない時はどうする?
何を言っているか分からなくても、空白のハコはNG。とにかく訳で埋める必要があります。
何回繰り返し聞いてみてもどうしても聞き取れない場合は、
①ネイティブスピーカーに助けを求める
②前後の流れからみて不自然にならないように自分で創作する
といった方法で対応している翻訳者さんが多いようです。
①ネイティブスピーカーに助けを求める
確実なのは、自分で聞き取れない部分をネイティブの人に聞き取ってもらう方法。
国際結婚をしている場合だったら配偶者に頼む、日本語→韓国語の字幕翻訳の仕事をしている韓国語ネイティブの同業者にお願いする(お返しに日本語の聞き取りを手伝ってあげる)など、さまざまな方法が考えられます。
中には、秒単位や1回いくらと決めて、お金を払って聞き取ってもらう人も。
いずれにせよ、字幕翻訳家を目指している人なら、ネイティブスピーカーとのコネクションを大切にしておいて損はないでしょう。
②創作する
コネがあればいいですが、「助けてくれるネイティブの知り合いなんていない・・・」という方や、ネイティブでも日本在住歴が長く、最新の流行語はよく分からないという方もいると思います。
また、納期が差し迫っていて、人に確認している余裕などないということもあるでしょう。
そんな時は、前後の字幕の流れや、話している人の表情、周囲の反応から判断して、不自然にならないように訳を自分で創作する場合もあります。
ただしその場合、申し送りなどで創作である旨をクライアントに伝える必要があります。
ココがポイント
聞き取れなくてもハコを空白のままにしないこと。何とかして埋める。
ハコの数が異様に多い
ドキュメンタリーはそうでもないのですが、バラエティー番組はとにかくハコの数が多い!
字幕翻訳は、誰かが言葉を発していたら、意図的にアウト(ハコを取らない)にする場合を除いてすべて字幕のハコを取ります。
バラエティー番組は、複数の出演者が一堂に会する場面が多いのでAトラックのハコも多くなりますし、テロップがある場合は文字情報としてBトラックにもハコが必要。
そのため、かなりの時間をスポッティングに費やすことになります。
1話(90分)で、Aトラック 1,700枚、Bトラック 800枚、計2,500枚ほどになるので、スポッティング作業だけで1.5~2日かかることも。
ただ、韓国のバラエティー番組のテロップは「クスッ」と笑えるようなセンスのいいものが多く(ツッコミのような感じ)、訳しながら楽しい気分になれるので、個人的にはそこまで苦にはなりませんでしたね。
これで内容がつまらなかったらちょっときついかもしれません笑
言葉遊びの訳し方が悩ましい
これは筆者が新人であること、日本語の語彙力・表現力が十分でないことにも関係しますが、話し手が言葉遊びをしていたり、ボケをかましている時、
「いったいどう訳したら日本語でもおもしろくなるんだろう?」
と悩みました。
バラエティー番組に出演しているタレントさんは、さすが『しゃべり』を芸にしているだけあって、旬の話題や流行語を巧みに織り交ぜてその場を盛り上げます。
韓国語で聞くとあんなに笑えたのに、自分の字幕つきで見るとなんかおもしろくない・・・
「いっそのこと字幕なしで見てほしい」なんて思うこともありました。
日韓の『笑いのツボ』が少し違うので、そこが難しさでもありますね。
気になるギャラは?
ドキュメンタリー、バラエティー番組を担当していた当時のギャラは、ずばり・・・
月収で15~18万円でした。
字幕制作会社のレートにもよると思いますが、新人のうちはまぁ、こんなもんでしょう。
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字幕翻訳って最初はどれくらい稼げるの?翻訳レートが低下してるって本当?
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あとがき
業界的には、ドキュメンタリーやバラエティー番組が新人字幕翻訳者にとっての登竜門となることもめずらしくないようですね。
スクリプトがないバラエティー番組は聞き取りが大変で、かつ日本語の表現力が豊かでないと筆者のように訳し方で苦労する可能性もあります。
将来的に「字幕翻訳の仕事がしたいな~」と考えている方は、リスニング力と日本語力を鍛えておくといいかもしれません。
ちー🍀