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韓日字幕翻訳の仕事にあこがれて1年間映像翻訳の学校に通い、字幕翻訳のルールやSST(字幕ソフト)の使い方について学んだ後、運よく翻訳会社のトライアルに受かり字幕翻訳のお仕事を始めた筆者でしたが、、、
実は、「この仕事を続けていくのは自分には難しそうだな・・・」と感じるようになり、プロになるのをあきらめました。
簡単に言えば、①実力不足と②収入面での不安、③健康面・ストレスが原因です。
これまでこのブログでは、どうやったら字幕翻訳家になれるのか?などを新人翻訳者の視点で紹介してきたのですが(字幕翻訳関連記事一覧)、このページでは字幕翻訳の仕事の実情や続けていく難しさなどをまとめてみました。

字幕翻訳者を目指すうえで、何が大変なのか?どんな人が向いているのか?など、「翻訳家になりたいけど不安」「キラキラした部分だけじゃなくリアルなところを知りたい」という方の参考になるとうれしいです。
①実力不足:高い言語能力が求められる
筆者が字幕翻訳の仕事を続けるのをあきらめた理由。
一番はやはり、自分の「実力不足」。これに限ります。
私は主にバラエティー番組やリアリティーショーの字幕翻訳を担当していたのですが、ドラマなどと違いスクリプトがない=自分で韓国語の原語を聞き取らなくてはならず、そこでたびたび苦戦しました。
韓国に交換留学したり、韓国企業で働いたりと自分の『韓国語力』にはかなりの自信があったのですが、「一字一句正確に聞き取れるか」「ネイティブ並みに言葉の意味を理解できているか?」という意味では全然まだまだだったんだなぁ、ということを思い知らされました。
特に韓国語のバラエティー番組では、若者の流行言葉やネットミームのようなものが次々と出てきますし(しかも年配の司会者とかもそれをバンバン使う)、言葉を短く省略することも好まれるため、常に知識のアップデートが必要。
韓国にいた頃と違って、そういった生きた韓国語に触れられる機会が減り、常に質問できるネイティブの友だちがいるわけでもない状況で仕事をしていると、どうしようもない孤独感にさいなまれることも・・・


どうしても聞き取れない場合は、字幕の流れを邪魔しない訳で埋めて、申し送りにその旨を書いたうえであとは翻訳会社さんの判断に任せることが多かったのですが、
1つの納品物に対して数箇所なら許容範囲なものの、10箇所以上とかの時はさすがに気まずかったです・・・
日本語の表現力が大事!字数制限がつらい
言語力という意味で言えば、韓国語の理解能力もそうですがそれ以上に大事なのが『日本語の表現力・センス』。
字幕翻訳には字数制限(1秒4文字ルール)があるので、限られた文字数の中でバチッとはまる訳を考えなくてはいけないのですが、日本語の引き出しが少ない筆者はこの点でも悩みました。
韓国の人は基本早口で、時には相手をまくし立てるような口調になったりするため、字数制限がかなりの障壁になります。
例えば、
「내가 아까 말했잖아! 너 그것도 모르니?」
というセリフだったら、直訳にすると
「僕がさっき言っただろう!そんなことも分からないのか?」
ですが、こんな長い文は当然字数オーバーとなり、どこかしらを削ったり捨てたりしていい感じの訳にする必要があります。
2秒分のセリフだったら2秒x4文字=8文字(+2文字くらいまで許容)に抑えるとして、
①「さっき言っただろう!」 ※セリフの前半を採用、後半をカット
②「分からないのか?」※セリフの後半を採用、前半をカット
③「聞いてなかった?」※ちょっと意訳
というように何パターンか考え、前後の字幕との相性も含めてどれがいいかを決めます。
自分なりに考えたつもりでも、③のように意訳が続くと翻訳者の「色」が出すぎてしまい、翻訳会社の担当の方から「無理にこなれ感を出そうとしていて、あまりよろしくない」と指摘を受けてしゅん・・・となったことも。
韓国のコンテンツを視聴者する方は「韓国語を楽しみたい」という方も多いので、訳は原語に忠実であるべきなのですが、直訳では伝わりにくいところをどうやって日本語に落とし込むか?これは本当に答えのない問いです。

調べもの(裏取り)がつらい
これは字幕翻訳に限りませんが、翻訳作業を行う上で大事なのがリサーチ(裏取り)。
固有名詞(知名・人名)や専門用語が出てきた時、正しい日本語表現であるかを調べて、参照元(Webページなどのリンク)とともに申し送りに書いていくのですが、これが地味に大変ですごく時間がかかるのです・・・!
この場合、Wikipediaなどではなくできるだけ公式機関のホームページから引っ張ってくる必要があるので、しかるべきページにたどり着くのも一苦労。
日本語の表記だけでなく、時代背景の確認などの時代考証が必要な場合もあります。

下の「字幕翻訳に向いている人/向いていない人」のところにも書きましたが、分からないことを徹底的に調べる粘り強さのある人、知らない分野も厭わない好奇心旺盛な人が翻訳の仕事に向いていると思います。
ドラマや映画ならよかった?
バラエティー番組やリアリティーショーの聞き取りが問題なら、原語のスクリプトが提供されるドラマなら続けられたのだろうか?と考えることもありました。
ただ、ドラマを担当できるのはある程度ベテランの方で(それが人気タイトルであればあるほどチャンスは回ってこない)、新人はまずスクリプトのないドキュメンタリーやインタビュー映像で実績を積むということが多いようなのですが、筆者はそこでつまづいたパターンです。
さらに、私自身の適正として「ドラマ視聴が苦手で韓国ドラマをあまり見たことがない」というのもネックでした。
集中力がないので十何話と続くドラマを最後まで見れないし、行間を読むのが苦手なのでセリフの意図するところをうまく汲み取れない、ましてや伏線になんて絶対に気づけないタイプの人間です。(結末やネタバレを全部見たうえで視聴しないと、展開についていけず取り残されてしまうという・・・)
連続ドラマやシリーズものでは、ある一つの言葉がのちに物語を読み解く重要なキーワードになっていたりするので、どう訳すかには細心の注意が必要です。
これが完結しているドラマならまだいいのですが、最近トレンドの配信型(1週間に2話ずつなど)の場合、結末が分からない状態で訳さなければいけないとのことで、意味を取り違えていた場合には配信後に修正が必要になったりすることもあるそう。

また、通常1つのドラマに字幕をつけるとき、翻訳者さん2人で奇数回・偶数回など変わりばんこで担当することが多いそうなのですが、訳にばらつきが出ないように統一表や呼称表を使用したり、予告がとんちんかんにならないように自分の担当回以外もちゃんと見るなど細やかな共同作業が求められるため、協調性△の自分にはこなせそうにないなと思ったんです。
また、映画の字幕翻訳にいたっては、バラエティーやドラマとどういう違いがあるのか?そもそもどういうルートで仕事をもらうのか?という点について、最後まで謎のままでしたね・・・
②収入:字幕翻訳家は稼げない?
次に、収入面での不安ついて。
上でまとめたような自分の実力不足もあって、翻訳の仕事を始めた頃に目標としていた年収や翻訳レートに達することができませんでした。
よく「フリーランス翻訳は稼げない」と言われたりしますが、これには語弊があり、
・翻訳者としての十分なスキル(外国語の理解力+日本語の表現力+リサーチ力)があって
・優良なクライアントがついていて、かつ
・納期に追われながらも最後までやりぬく体力・精神力
があれば、翻訳一本で食べていける収入を得ることはできますし、そういう翻訳者さんはたくさんいます。
この『出版&翻訳 完全ガイドブック』でも紹介されているのですが、フリーランス翻訳者の平均年収は400万円くらいとのこと。ただ、これはあくまでも平均で、何年も経験を積んだベテランの翻訳者さんが500~600万円以上を稼いでいる一方で、下積み中の翻訳者さんだと当然年収も低く、何年かは100~200万円で踏んばらなければならないという実情があるようです。
韓日字幕翻訳のレートは低い
字幕翻訳は○○分あたりいくらという納品物の長さで報酬が決まります。
韓国語の場合、英語よりもレート(単価)が低いことが一般的で、1分当たりでいうと英語が700~1,000円なのに対し、韓国語は500~800円くらいということが多いようです。
仮にレートが600円/分だとして、80分のバラエティー番組を月4本納品すると・・・
600円 × 80分 × 4本 = 月収192,000円
新人字幕翻訳者の月収のイメージはこんな感じ。
「韓国語を生かしながら在宅で仕事できて、月20万稼げるなら十分じゃない?」と感じる人もいるかもしれませんが、実は時給換算するとかなり低くなるんです。私の計算では、常に時給1,000~1,200円くらいでした。
どういうことかというと、20分くらいの映像をこなすのに1日8~9時間くらいの作業時間が必要(スポッティングと呼ばれるハコを作る作業、原語の聞き取り、翻訳、リサーチ&申し送り)なため、例えば上の例のように80分の映像を週に1本納品するとなると、週のうち4日を作業に充て、残り1日でチェック&手直しをすることになります。
8時間×週5日×4週 = 160時間⇒さっきの月収で割ると時給1,200円

これについては、いくら「お金じゃない」とか「やりがい重視」といっても、語学力を含めかなり高度な技術が必要な仕事なのだから、その分報酬として返ってこないと続けていくのが難しいと感じる人も多いだろうな、と新人翻訳者なりに思うところがありました。
③健康面・ストレス
そして最終的な決め手はこれ。
長時間座りっぱなしで働いて腰を悪くしてしまったことと、締切のストレス&翻訳会社の担当の方のダメ出しでメンタルが折れてしまったこと。
メンタル的なところでは、自分が「これだ!」と思って出した訳でも、担当の方から「う~ん、なんか違うんだよねぇ」とか「もうちょっとセンスのある言い回しにして」というアバウトな指摘を受けることもあり、最初の方は必死でくらいついていたものの、それが続くと自分でもどうしていいか分からなくなってきて、締め切りまでにいい訳が思いつかずに泣きながら仕事をしたことも。

そんな中である日腰から足にかけての痛みでうまく歩けなくなり、坐骨神経痛と診断されてしまいました。
その時の一日の作業時間は8~9時間ほど。こう言うと、
「8時間×週5日って、別に普通の会社で働くのと同じじゃない?」
と思われるかもしれませんが、フリーランスで絶対守らなければならない納期があって、自分が体調を崩したり急用(例えば親族の訃報)があったりしても仕事を代わってくれる人がいないという孤独な状況で仕事をするのは想像以上のプレッシャーで、体力的&精神的にかなりの負荷がかかっていたのだと思います。
もちろん会社で働いていた頃も、期限付きの業務に追われて残業したり、上司・同僚との人間関係などがストレスになった時もありましたが、急な体調不良の際に同僚がカバーしてくれたり、ミスをしたときに上司がフォローアップしてくれたりと、組織で働くメリットもあったんだなと改めて感じました。

ちなみに筆者はその後、一部社会復帰して今は『フリーランス+派遣』の二足わらじで生計を立てています。30代半ばで社会復帰するにあたり、簿記の資格を取ったりといろいろ奮闘したので、そのことはまた別で書きたいと思います。
字幕翻訳に向いている人/向いていない人
というわけで、この記事の総括として字幕翻訳の仕事に向いている人の特徴をまとめると・・・
字幕翻訳に向いている人
- 原語(翻訳したい言語)の理解力・日本語の表現力が豊かな人
- メンタルが強い人、粘り強い人、好奇心旺盛な人
- 一日8~9時間は作業に時間を割ける人
つまりその逆を言えば、
・そこまで言語能力が高くない
・メンタルが弱い
・一日数時間程度の作業時間しか取れない
という人は、もしかしたら字幕翻訳の仕事に向いていないかもしれない、始められても続けるのが難しい可能性があります。
こればかりは人によるので何とも言えませんが、言語能力については、翻訳学校に通ったり仕事をしながら伸びるということも十分考えられます。
私が伝えたいのは、もし字幕翻訳の仕事を「在宅でスキマ時間に楽に稼げる仕事」だと思って始めようとしている人がいたら、やめておいたほうがいいということ。
決して片手間でできる仕事ではないということを身をもって学んだからです。
あとがき
このブログにたどり着く方の中には、字幕翻訳家を目指している人、映像翻訳の仕事に興味を持ち始めたという人が多いと思いますので、あまりネガティブなことばかり書かないほうがいいのかな・・・と迷いました。
ただ、読んでいる方の夢を壊すのではなく、より現実的で納得できる選択ができるよう自分の体験を踏まえて率直に書かせていただきました!
翻訳家を目指す人って、外国語が話せて真面目で優秀な方が多い印象です。どうかご自身の能力を最大限活かせる仕事を見つけるため、この記事をひとつの判断材料としていただければと思います。
文中にも書きましたが、私は現在フリーランスと派遣を掛け持ちしていて、週3~4日会社で営業事務をするかたわら、スキマ時間や週末などにフリーランス翻訳の仕事を続けています^^飽き性の自分にはこのスタイルが合っているのかな、とも思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ちー🍀